谷本歩実

2008年08月12日

谷本63kg級2連覇vsデコス

全て1本勝ちで勝ち進んだ谷本歩実。

決勝はフランスのデコスだ。

デコスは手足が長く懐が深い。
間合いも広い。

始まってしばらくは谷本、デコス共に様子見状態だ。
軽く技を掛け合う。デコスは谷本からの仕掛けにあまり反応しない。
デコスは落ち着いているようだ。

開始から1分20秒過ぎ、デコスはくみぎわに内股を狙ってきた。
谷本は身体を引いて交わすと身体を反転させ右足の内股を仕掛ける。
するとあっという間にデコスの身体は一回転した。

谷本の内股1本勝ち!!!!
スゴイ!

大会前のオッズではデコスが本命。

女子63kg級
         国・地域  倍率
ルーシー・デコス フランス  1.57倍
谷本歩実       日本   5.50倍

デコスは
2005年世界選手権優勝
2007年世界選手権二位
2007年、2008年、ヨーロッパ選手権二連覇
という選手。

デコスと谷本とはジュニア時代からのライバルだ。
2000年の「世界ジュニア選手権」では、決勝で敗れ、シニアになっても谷口は一度も勝った事がない。2004年の「アテネ五輪」では、デコスが谷本と当たる前に敗退し対戦する事は無かった。その後、2005年の「ドイツ国際」決勝でも敗れ、「世界柔道カイロ大会」の決勝、そして、去年の「ワールドカップ」では一本負けを喫している。
この2人の対戦は、互いに“一本”を狙った真っ向勝負。これまでは、足を掬われたり、一気の突進や、逆に仕掛けた技を豪快に返されるなど、デコスのパワーとテクニックの前に苦杯を喫してきた。

以下は五輪前のインタビュー

<どうしても、デコスに勝てない>
世界柔道の代表に決まった谷本に聞いてみた。
Q:「何か策は考えていますか?」

「……自分がどっちを選ぶか、なんですけど。“一本”を取りにいくのか……」
珍しく歯切れの悪い答えだった。
「私的には認めたくないんですけど……、そういう柔道をしたくないんですけど……、勝ちにこだわって、“効果”を取りにいくか……、という感じですかね、わかんないです」
質問に答えている間も、谷本の心は揺れていた。
「自分の力が120%出せるんだったら、全力で一本を取る柔道をしたい。でも、どうしても欲しい、獲りたいタイトルなので、わからないです。これだけは、ホントに……」

デコスも他の選手には負けている、決して絶対女王ではない。デコスが敗けた試合を見ると、相手は全くと言っていいほど技を掛けず、攻めて行かない。そして、イラついて出てきたところを返したり、技を掛けるふり(偽装=掛け逃げ)で攻めている印象を与え、それが旨くいけば「指導」で勝つというパターンが多い。
まさに、近年の外国勢が日本選手に対する作戦<柔道をしないで勝つ>。
谷本も、当然それは知っているが……。
「果たして、それでいいのか?」
谷本歩実は、悩んでいた。

それから毎月のように顔を合わせてはいたが、何も聞かなかった。
そして、本番1ヶ月前となった日に、ズバリと聞いてみた。
Q:「今度の世界柔道は、どっちの柔道で戦いますか?」

「“一本を取る柔道”で戦います」
真っ直ぐな答えが返ってきた。
「確かに勝つために小さいポイントを取る、狙っていくという事も大切なんですけど、やはり、自分がずっと信念として掲げてきた事が、“一本を取る柔道”なので、最後まで貫きたいです」

デコスにも谷本の事を聞いた。
「彼女と戦うのは、いつも楽しみですし、誇りでもあります。彼女に勝つためには、特別な作戦などは無く、ただ戦う事です。もし、私達が対戦する事があって、それが決勝であったなら、結果は、ぜひ2年前と同じであって欲しいわね」

さらに、意地悪く谷本に聞いてみた。
Q:「当然、向こうは返しを狙っていると思いますが、それでも?」


「それでも、いきます! それで返されて投げられても、自分でも納得できると思うので。ワールドカップでは一本負けだったんですが、自分のこれまでの試合の中で一番いい試合だったという思いが強いので。色々と考えたんですけど、やっぱり、自分の強いところで勝負していきたいと思うし、後で後悔するんだったら、全部自分の柔道を出していこうと思います!」
Q:「返せない一本で勝つ!と?」
「返せない一本で……。本当に難しいんですけど、逆に言ってみれば楽しい。何かワクワクする。見ている方はハラハラ、ドキドキだとおもうんですけど。そういうところを、皆さんに柔道を楽しんで貰えたらなって、すごく厳しい戦いになると思いますけど。私が柔道をしていて、一番楽しいのがデコス選手なんですよ、自分の柔道を120%引き出してくれるので、今回も楽しんでこようと思います」

「アテネ五輪」の後は、「勝たなきゃいけない」「一本を取らなきゃいけない」「私も日本を引っ張らなくちゃ」……と、重すぎる荷物を背負い過ぎて、押し潰されそうになった時もあった。今回も日の丸を背負って勝負の畳に上がる事に変わりはない。しかし、今の谷本は、その勝負が楽しみ、「柔道を楽しむ」気持ちでワクワクして、その時を待っている。ブラジルでは、伸び伸びと試合をする<21世紀の女三四郎>の姿が見られそうだ。
これまで、様々なスポーツ選手の言葉を聞いてきたが、「プレーする事が楽しみです」と言って、世界の大舞台に向かった選手達は、みんな笑顔で帰国したと記憶している。

谷本選手、金メダルおめでとう。


get_bunf at 20:44|Permalink